多くの企業で「人」の重要性が再認識され始めています。
起業して事業が成長するにつれて、人を雇用し組織や制度を整えていかなければならない時が来ます。
福利厚生や制度の充実が優秀な人材の獲得や、人材の流入を防ぐことにもつながるというプラス面はもちろんですが、時には人事制度の不備が企業の信用失墜につながるリスクも備えているなど、企業と人の関係は会社経営上軽視できない要素です。
それらの問題を整備をする際にぜひ活用したいのが、社会保険労務士(社労士)です。
今回は、社労士を多いに活用してもらうために、依頼やサポート内容についてまとめました。
会社経営における「人」のプロフェッショナル
社労士とは、労働関係法令や社会保険法令に基づく各種書類の作成代行や届出等を行ない、また会社を経営していく上で労務管理や社会保険に関する相談・指導を行う国家資格を持った専門家です。
つまり、会社経営において非常に重要な要素となる「人」に関する業務全般をサポートしてくれる専門家です。
社会保険労務士に依頼できる仕事は、大きくわけると1.人に関する業務の外注(アウトソーシング)と2.人に関する業務のコンサルティングの2種類があります。
1.人に関する業務の外注(アウトソーシング)
企業の総務部・人事部・労務部などの管理部門の業務は給与計算など毎月の手間がかかります。
スタートアップの段階で本業以外のそれらの業務に手間取ってしまうのは本業の成長スピードを落としてしまい商機の機会損失につながりかねません。
そのため管理部門の業務そのものを社労士にやってもらうことができます。
具体的には、労働保険・社会保険に関する手続き、給与計算などの仕事を依頼することができます。
社労士に外注できる主な業務
- 社員の入社・退職時に雇用保険や健康保険・厚生年金の資格取得や喪失の手続き
- 業務上のケガ・通勤途上のケガ、いわゆる、労働災害(労災)が発生したときの届出
- 社員に扶養家族が増えたり減ったりする場合(結婚・出産・離婚・死亡など)の健康保険証の変更手続き業務
- 社員の住所や姓名か変更された時の雇用保険・健康保険などの変更手続き業務
- 会社が移転したり、支店や拠点が増減した場合の労働・社会保険上の手続き
- 社員の毎月の給与計算や勤怠管理業務
- 労働保険料の1年間分の保険料を計算して申告する業務(年度更新業務)
- 1年一回、社員一人ひとり個別の社会保険料を計算して申告する業務(算定基礎届)( ※4・5・6月の3か月分の給料の平均値を計算する。7月に申告)
- 健康保険関係の給付(出産一時金・傷病手当金)手続き
よくある社労士への業務外注依頼
「人に関する業務」を行う専門スタッフの不足
まず、人事・労務関連の業務を社長自らがおこなっていて、本来の仕事に支障をきたしているような会社が、困った末に外注先として仕事を依頼するといったケースがあります。
創業期のベンチャーや中小企業では、人事・労務関連の業務に専任のスタッフがいないことが多いため、社長から専任のスタッフに仕事を引き継ぐことも難しいです。また、たとえ専任のスタッフがいたとしても、毎年改正される保険料率など、人事・労務の分野では常に最新の知識が必要になってきているので、スタッフの継続的な教育が必要になってきます。
事業が急成長して「ヒトに関する業務」が大変
次にベンチャーや新興企業に特に多いケースですが、急速に事業が成長して従業員数が増えすぎ、入退社手続きや給与計算業務量が急増かつ複雑になってきたという企業に、社労士への外注のニーズがあります。
このケースも、業務を行う専門のスタッフを育成するのに手間とコストがかかるために、プロである社労士への外注が検討されることになります。
外部委託による合理化でコストダウン
最後に、月末に集中する給与計算をするために社員にかなりの残業代を支払って仕事をさせているので、なんとかコストダウンしたいと考えているようなケースです。
このような企業は、一年に一回の業務(「労働保険年度更新」や「社会保険算定基礎届」)についても、普段からコツコツやっておらず、手続きや作業を溜め込んでいることが多いです。
さらには繁忙期にあわせて人員を増やしてしまっている場合は、月末や年一回の業務の時期以外は、逆に人員が過剰になってしまいます。
そこで社労士に外注を検討し合理化を行うことになるのです。
合理化による人件費削減で、企業規模にもよりますが、人事・労務の業務をすべて自社内で実施するのに比べると、コストは1/3程度になると言われています。
「必要以上に管理部門の規模が膨らんできたな」と感じ始めたら、一度検討してみましょう。
2.人に関する業務のコンサルティング
もう一つ、社労士に依頼できる仕事の大きなくくりとして、人事・労務管理に関するコンサルティング業務があります。
具体的には、就業規則・退職金制度・人事制度(賃金制度・評価制度)助成金、高齢者の賃金設計・就業時間管理・行政官庁調査対応、社会保険料適正化などです。
いわゆる「ブラック企業」のレッテルを貼られないために、制度設計は慎重に行う必要があります。
社労士にコンサルティングを依頼できる主な業務
- 就業規則の作成・見直し・変更のコンサルティング(リスク回避型)
- 変形労働時間制・裁量労働制などの導入コンサルティング
- 社会保険事務所・労働基準監督署の調査指導の対応業務
- 助成金の申請代行コンサルティング
- 人事制度全般にかかる賃金制度設計や評価制度の導入コンサルティング
- 退職金制度のコンサルティング
- 社会保険料の適正化コンサルティング
- 高齢者の定年後の継続雇用に関するコンサルティング
よくある社労士へのコンサルティング依頼
社内規則や規定などの整備
就業規則のような社内規則・規定をつくりたいというような企業のニーズが多いです。
社員がすぐにやめてしまうので高い離職率を下げたい、社内の労使間での雰囲気が悪いので、なんとか関係改善を図りたい、ルールを明確にすることで労働者のモチベーションを上げ、業績アップを目指したい、助成金の申請に必要など、企業によってさまざまな理由がありますが、そんな社内規則・規定の作成時を社労士に相談し、アドバイスやサポートを受けることができます。
助成金の申請・受給
次に起業直後の創業期のために少しでも資金が欲しい、あるいは異業種に進出を考えているなどの理由で、返済が不要な助成を申請・受給したいと考えているようなケースで社労士のニーズがあります。
助成金は雇用促進や社員のキャリアアップを目的とする政策であり、厚生労働省が管轄しています。そのため助成金の受給には、就業規則の作成や運用実績が必要なのです。
就労規則の作成・運用から助成金の申請・受給までの一貫したサポートを社労士から受けることができます。
また、助成金には募集期間があるため、助成金の存在を逐一チェックしていなければ受給の機会自体を損失してしまいますが、社労士と顧問契約をすれば逐一情報提供をしてもらうことも可能です。
賃金制度の設計
賃金制度の一般的な考え方や、自社に合った賃金体系の提案といったニーズにも社労士は応えてくれます 。
具体的には昇給・昇格・賞与の違いは?、ベースアップと定期昇給とは?、同業他社の初任給や賃金水準を知りたい、賃金体系をつくりたい、能力給や年俸制・成果給などを導入したいなどの質問や相談に対応してもらえます。
従業員の採用やモラル向上のために大切な賃金制度については、会社が独自の考え方に基づいて構築していくものです。
社労士に相談することで、基本的な手法や同業他社の水準などをある程度念頭に置いて構築することができ、賃金水準の問題、人材採用、早期離職者の問題、賃金水準を上げすぎてしまうことによる経営への圧迫などの問題を回避することができます。
社会保険の整備
また社会保険の導入に関して社労士に相談、サポートを受けることができます。
社会保険に未加入の社員がいる(特にパート・アルバイト)、社会保険事務所から調査が入り対応に困っている、毎月の社会保険料負担に苦しんでいるなどのケースが考えられます。
ベンチャー企業の中には、起業直後の社会保険の整備がいい加減な状態のまま急成長し、社会保険の整備がそのまま放置されて非常に大きな問題に発展するケースもあります。
ヒューマン・リソース・マネジメントについての相談
さらに定年後の高齢者を効率よく(安く)使えないかと考えている、優秀な人材を採用したい、リストラを考えているなど、人材の採用・ヒューマンリソース管理に関しても、社労士に相談したりサポートを受けることができます。
起業してすぐのベンチャー企業は資金力に余裕がない場合も多く、人件費を抑制しながら優秀な人材を採用・活用していくことが多いです。そのようなケースの人材の採用・活用に関して、社労士は事例も含めて具体的なアドバイスをすることができます。
人事労務関連の情報を提供してもらう
先の助成金に関する情報提供などもそうですが、他社の人事労務管理制度や人事労務関連の法改正情報を社労士から得たいというニーズもあります。
すでに人事・労務管理を上手くやっている企業のノウハウは、新たに制度を作っていくベンチャー企業にはとても有用です。また、本業と直接関係のない人事・労務関連の法律の改正情報は、社内の担当者ベースで正しく追っていくのは難しいので、社労士を活用する方が効率的です。
公にはしがたい労使問題の相談
他にも以下のような離職・退職やセクハラ、パワハラなど、公にはしづらい内容や相談したい内容の人事・労務関連の問題に対しても、社会保険労務士には守秘義務があるため安心して相談やサポートを依頼することができます。
■離職・退職関連
- やめさせたい社員がいるのですが、トラブルなく解雇する方法は?
- 早期優遇退職制度の導入をするには?
- 成績の悪い社員の給料を下げる方法は?
- 辞めた社員が、サービス残業分の残業代を請求してきた場合の対処法
- 1ヶ月前に告げればどんな従業員でも解雇できる?
- 有給休暇の現金で買い取りはできる?
- 退職金は必ず払う必要がありますか?
- 社長の退職金を用意したいのですがどうすればいい?
■賃金・労働条件関連
- 遅刻とか欠勤の場合の賃金はいくらカットしてもいいのですか?
- 負担増なのでボーナスは次からなくしたいのですがいいのでしょうか?
- 退職金制度を廃止するには?
- 同規模・同業種の給与・ボーナス・退職金はどれくらい?
- どこの会社も、残業代はきっちり支払っている?
- 合法的にもっと残業させるには?
- パートでも有給休暇は与えなくてはいけない?
- パート社員が育児休暇を申請してきた場合、どうすればいい?
■労働問題関連
- 労働基準監督署から呼び出しがあった場合の対処法は?
- 社会保険事務所から調査の申し出が届いたのですが、調査は受けなければいけない?
- 社内で発生したセクハラを公にせず解決する方法はある?
- 労災が発生しましたが、届け出はしなくてはいけないの?
- 会社の合併を考えていますが、労働条件の食い違いを吸収する方法は?
- 会社の営業秘密が社員より漏洩しているようなのですがどうすればいい?
■人材採用・育成関連
- 採用予定人員が確保できません。どうすればいい人材が採用できる?
- 社員のモチベーションをUPさせるには?
- 社員の離職率が高く、定着しないのをどうにかしたい
- 従業員が急に出勤してこなくなったのですが、こういう場合はどう対応すべき?
- 社員同士が就業時間内にケンカをして備品を破損!対処法は?
会社経営における「人」に関する問題は会社経営の要素の中でも特に解決に労力を費やします。
人事・労務関連の専門ではない起業家にとって、自分で解決しようとすれば、精神的な疲れも含めて費やす労力は計り知れず、経営の足かせにもなりかねません。
資金や税金に関することは税理士に、ヒトに関することは社会保険労務士に、といったように、専門家のサポートを受けながら、経営者は本業の成長と事業の方向性を第一に考えなければスタートダッシュでつまづくことにもなりかねません。
よほど人事・労務に関する業務に自信がある場合でなければ社労士を利用する方が無難です。
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